請求書を前に、その明細と自分たちが食べたものが一致しているかどうか、時間をかけて入念にチェックする。 一人だけでなく、かたわらの友人も一緒に目を皿のようにして見ていることがある。
もし疑問があれば、係のウェイターを呼んで、納得がいくまで説明を聞く。 「食前酒のジン・トニックは二杯しか飲んでないのに、三杯請求されている」とか、細かいことも見落とさないシティの人々の気概であり、生き残る最善の知恵なのである。
その点、どうも日本人の方が見栄っ張りというか鷹揚というか、関西流でいえば「エエカッコシ」であるようだ。 欧米のレストランは、テーブルで会計を済ませるが、係のウェイターは請求書を置くとすぐどこかに行ってしまうから、同じウェイターをつかまえてクレジットカードあるいは現金を手渡すまでずいぶん時間がかかる。
私は時間を節約するために、ウェイターを立ち去らせず、請求金額だけざっと見て、大体こんなものだろうと判断すればその場で支払うことにしている。 たいていの日本人は、あまり請求書の内容は細かく見ない。

請求書が手もとに来ればすぐに支払いを済ませ、席を立つ人が多い。 イギリス人は違う。
そんなところで見栄を張ったり時間を惜しんだりするよりも、食べた分だけ、受けたサービスの分だけの対価を間違いなく支払うことの方が、よほど大事だと考えている。 小さなことだが、これもイギリスが契約社会であることの反映である。
注文した飲み物と料理を、快適なサービスとともに提供するのがレストラン側の義務。 その対価としてメニューに記載されている通りの価格を支払うのが客の義務。
イギリス人にとってこれは立派な相互契約の履行なのである。 だから、請求書をすみずみまでチェックする。
請求書も契約の重要な一部である。 この間、BBCテレビで結婚問題について討論会をやっていた。
中年の倦怠期になったカップルがどうそれを乗り越えるか、というテーマだ。 発言者の一人の女性がいみじくもこう言った。
「結婚も契約の一種だから、夫も妻もお互いに相手に対する義務を果たさなければならないと思います」これを聞いて私は、「なるほど確かにイギリスは契約社会だな」と納得したものである。 イギリス人の契約にこだわる性質がもっとも強くあらわれるのは、生活を支える給与を決める時である。
就職するには何度か面接を受けなければならない。 最終面接に合格すると、企業からオファーレターというものが送られてくる。


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